【からふるわーくす】PM編小説10話「トップページは私のものだ!」

天満川鈴 WRITTEN BY 天満川鈴
スポンサーリンク

本編

① 状況提示

うららかな陽射しが差し込むWeb制作会社「からふるわーくす」オフィス。
カチカチカタカタスコスコと軽快に流れるキーボードとマウスを叩く音。
進行中のWebサイト制作案件はデザインもコーディングも最終盤を迎えている。

Webディレクターのデスクには淹れたてのブラックコーヒー。
その主たる小田は、隈の常駐した目を細めつつ「ふわっ!ときて、じゅわっ! 濃厚ミルクカスタードと発酵バターのハーモニー鳴り響く、ほろほろ贅沢ブリオッシュ」にぱくつこうとしていた。
コンビニLowsonの期間限定パン。
15時のプチ休憩タイムに、プロジェクト完遂の前祝いをしようと買ってきたものだ。

――オフィスにバタンと勢いよくドアを開ける音が鳴り響く。

「小田さん! クライアントから嬉しいご連絡が!」

営業の任野がスマートフォンを掲げながら飛び込んできた。
今回のクライアントはユーズドショップ「セカンドライン」。
小田のデスクへと駆け寄る。

「社内でテストサイトを共有したらものすごく好評だったらしくて!」

「ふんふん、それは嬉しいわね」

「『追加で他の関係者の皆様にもぜひレビューに入っていただこう』ということになりました!」

えっ、ちょっ!?
ほろほろなはずのブリオッシュが心なしか重くなる。
嫌な予感がする。

「……任野ちゃん、なんて答えたの?」

「『弊社にお任せください! 関係者全員に認めていただけるサイトを納入してみせます!』と胸叩いてきました」

あちゃあ……。
絶句しかける。
しかしふんわりな笑顔を浮かべるデザイナー絵森が、パチパチと拍手で遮った。

「より多くの方にサイトを見ていただけるなんて作り手冥利に尽きますわ。ときめきます!」

コーダーの言葉も、画面に目を向けたまま、訥々とつぶやく。

「事前に多角的な視点から検証が行われることは、リリース後の不具合や手戻りを防ぐ観点からも合理的です」

そうか、この子達は、これがトラブルの予兆とわかる経験を積んでないんだ。

ううん、でも……必ずしもトラブルに発展するとは限らない。
何事もないときは何事もなく進む。
今回もきっとそう!

脳裏に響く、お仕事現場を生き抜いてきたディレクターの本能が発するアラートを抑え込むように打ち消した。

しかし体は正直だった。
小田は無意識に、デスクの引き出しに入る胃薬へ手を伸ばしていた。

② 違和感発生

数日後、窓口を務める任野に、クライアント企業の各部署から「追加レビュー」のフィードバック(FB)が怒涛の勢いで集まってきた。
言葉がFBを集約し、一覧をディスプレイに表示する。

「……各ステークホルダーからの要望が出揃いました。確認します」

からふるわーくすのメンバーが固唾を呑んで見守る。

「まずは、今回から参加された経営役員の方からのご意見です。『我が社の信頼性をアピールするため、もっと全体的に企業感を前面に出してほしい』とのことです」

絵森が少し小首を傾げる。

「企業感、ですか……」

「次に、広報担当者の方からです。『ちょうど今期の採用活動に力を入れているので、このサイトを採用のフックとしても使いたい』」

任野が拳を突き出しながら目を輝かせる。

「サイトでやれることはどんどんやっちゃいましょー!」

「続いて、現場のサービス運用担当者の方。『実際にサービスを利用するお客様の利便性を最優先にしたい。迷わせない導線にしてほしい』」

今度は絵森も目を輝かせた。

「UXの充実を図るんですわね。『使いやすい』と顔を綻ばせるお客様を想像するだけで、ときめいてしまいますわ」

「最後に、外部のSEOコンサルタントの方から『検索流入をさらに伸ばすため、関連コンテンツへの導線を強化したい』とのことです」

任野が、わかってないのにわかったようなドヤ顔をしてみせる。

「増やせるアクセスは増やさないとね!」

(まだ、大丈夫かな……)

小田は黙ってディスプレイを凝視していた。
クライアントのFBを個別に判断すると、それぞれに聞くべきところはある。

「企業感」なんてふんわりした要望は、制作会社にとって困りもの。
ましてや納期直前になってだ。
とはいえ、あくまでデザインの問題だから技術上の対処はできる。

採用については、現在も案内するページがないわけではない。
採用ページへのナビを目立たせたり、CTAで導線を繋いだりで方法論的に対処はできる。

導線作りはサイトの基本だから、現在だって考えて作っている。
それを説明すればいいだけ。
不備があるなら直すのは当然だし、納得してもらえないなら改めて考えればいい。

SEOも然り、基本的な施策は行っているので説明するだけ。
採用強化をするなら、それに伴う構造化などを見直すかもくらい。
もし古典的SEOコンサルにありがちなブラックハット紛いの方法を持ち出されたら、そのときは頭を抱えるかもしれないけれど。

個別に見れば、どうにでも対処しうる。
しかし問題はそこではないのだ。

念のため、これだけは確認しておこう。

「任野ちゃん。工数は絶対に増えるのが見込まれるけど、それについてはどう?」

「はい、もちろん。場合によっては追加料金が発生するかもしれないことは説明しました。先方も承諾してくださってます」

それならいいか。
役員は会社の格を、広報は未来の仲間を、現場は今のお客様を、コンサルは成果を。
全員が「良くしよう」と思って発言している。
このまま終わるのであれば、その思いを無碍にすることもあるまい。

終わってくれるのならだけど……ね。

③ 問題の顕在化

数日が経過。
小田の前では、任野が困惑の表情を浮かべながら営業資料を抱え込んでいる。

「小田さん……クライアントからの修正依頼が次から次に送られてきます……それもどんどん具体的に……」

数日前とは打って変わって声のトーンが低い。

「広報さんは『とにかく採用情報を一番目立つトップページ最上部に配置して』、現場担当者さんは『利用案内をトップ最上部に持ってこないとユーザーが困る』、役員さんは『会社紹介のメッセージをトップ最上部に』と……」

つまり「我こそをトップページ最上部に!」が三者で重なってしまったのだ。

言葉がキーボードを打つ手を止める。

「……技術的に、すべてを最上部に配置することは不可能です。優先順位が定義されなければ、コーディングに着手できません」

絵森も顔を曇らせる。

「全部を主役にはできませんわ。レイアウト的には美しくありませんし、利用者の体験的にも心地良くありません。見た目も目的も散らかった『ときめかない』サイトになってしまいます」

(やっぱりこうなったか)

矛盾であり、トレードオフ。
全員が好き勝手言うことで、意見がまとまらなくなる。
これこそ小田の怖れていた事態だった。

任野が半泣きになる。

「でもでもでも! 皆様、本当にお客様や会社のために良かれと思って言ってるんですよ! やっぱり叶えてあげたいです!」

そうなんだよねえ。
任野ちゃんの言ってるのはきれいごと。
でも、みんな悪気はない。
それどころか、全員が自分の立場から会社のための最善を考えて主張している。
ただ、その熱意が三者三様で空回りしているだけで。

デスクの引き出しから胃薬を取りだし、ぐっと飲み干す。
それじゃ私の仕事をしますか。
小田は頬をぱんと叩いて顔を引き締めた。

④ 議論

ホワイトボードの脇に立った小田がパンと手を叩く。

「はい、注目」

ホワイトボードに「広報」「現場担当」「役員」と書き、それぞれから→を引く。

「今回の問題がどこにあるのか、もうみんなわかってるよね」

矢印の集合点に「要件の矛盾」と書き込んだ。

「形だけなら全員の要望をパッチワークのように繋ぎ合わせて実現するのも不可能ではない。例えば上部に会社紹介、中央にサービス案内へのCTA、下部に採用エントリー受付中のCTAを配置したMVを置くことはできる。でも――」

後輩自らの口で語らせよう。
問題の本質を一番言語化できていそうな言葉へ視線を向ける。
小田の期待通り、言葉は淡々と繋げた。

「コンセプトが崩壊した無価値な成果物が完成します。かえって、どのステークホルダーにとっても利益になりません」

小田が静かに、でもゆっくり含ませるように問いかける。

「任野ちゃん」

「はい?」

「今回、追加で関係者さんがたくさん増えたよね」

「はい。 役員の方も、広報の方も、現場の方も、コンサルの方も」

「その中で、最終的に『どれを優先するか』を決める、決定権者は誰なの?」

「え……」

言葉と絵森が視線を小田に向ける。
オフィスの空気が、一瞬で凍りついたように静まり返った。

任野が気まずそうに視線を泳がせながら、たどたどしく説明する。

「それは……みなさん、それぞれの立場で『これが重要だ』と仰っていて……ええと、誰が一番上、というのは……」

小田がくすりと笑う。

「任野ちゃんを責めてるわけじゃないのよ」

⑤ 整理

「一旦整理しましょ」

マーカーを手に取り、迷いのない手つきで図を書き始めていく。

【 意見を出す人 】 (役員・広報・現場・コンサル)

【 判断する人 】 (各意見の優先順位を精査する窓口)

【 承認する人 】 (最終的な意思決定を下す責任者)

【 連絡する人 】 (からふるわーくすへの窓口:任野ちゃん)

小田が、みんなに向き直った。

「関係者が増えて、たくさんの意見が出るのはいいことなの。それだけサイトに期待してくれているっていう証拠だから――」

絵森、ついで言葉に目を向ける。

「絵森ちゃんが言ったとおり作り手冥利につきる。言葉ちゃんが言ったとおり、私達にとっても色んな角度でQAできるから合理的でもある」

2人が黙ってこくりと頷く。
それを確認してから、小田が説明を続ける。

「問題はね、意見を言う人が増えたことじゃないの。全員の意見が同時に成立するのなら、私達もその意見を同時に実現できるのなら、増えたって問題にはならない」

ホワイトボードに「からふるわーくす」を加える。
A社をピッチャーに見立てて、「矛盾」と書かれたボールをからふるわーくすに投げさせる。

「問題は矛盾した要望が、矛盾したまま私達に投げられてしまったこと。『意思決定ルート』が曖昧なことが今回のトラブルの本当の原因なんだ」

この方がわかりやすいかな?
小田が、ピッチャーがA社担当1人のときと、広報・利用者担当・役員の3人で書き分ける。

「ピッチャーが1人なら任野ちゃんも対応は『お任せください!』って言えるよね?」

ホワイトボードに、笑顔でホームランを打つ任野のイラストを加える。

「でも4人になったら、どの球を打ったらわからない」

ぐるぐる目を回しながら空振りする任野を描く。

「具体的に言うなら、関係者が増えたことで『意見を出す人』が乱立し、それを集約して『判断・承認する人』が不在のまま、すべての意見がそのまま開発現場に流れてきてしまったってこと」

4人の中から「担当」を赤ペンでぐるぐる囲った。

「私たち制作側がやるべきなのは全員の意見を全部無理やり詰め込むことじゃない。『誰が舵を取るのか』というルールを決めてもらうことなんだ。本当は人が増えたところで任野ちゃんに釘を刺してもらうべきだったんだけど……」

ぺろりと舌を出す。

「何事もなければステークホルダー達の生の声を聞くチャンスだし、こうなったとしてもみんなの経験になるしと思って黙っちゃった。ごめんね」

3人がふるふると首を振る。
もちろん小田が全体を考えてそうしたのがわかってるからではあるのだが。
実は3人の頭に浮かんでいた、この場に全く関係無いセリフを打ち消すためでもあった。

(小田さんって、相変わらず、ムダに絵が上手い……)

⑥ 解決

任野はすぐにクライアントの元へ飛び、率直な相談を持ちかけた。

「『窓口の一本化』、そして最終的に優先順位をジャッジしてくださる『最終承認者』をお一人決めていただけないでしょうか」

クライアント側も、悪気があって揉めていたわけではなかった。
「意思決定ルート」の必要性を提示されたことで気づかされ、当初からの窓口であったWeb担当者が率直に頭を下げる。

「確かに、みんなで好き勝手に任野さんに投げて混乱させました。申し訳ございません」
うっかり、4人で矛盾ボールを投げ込む小田のイラストが脳裏に浮かぶ。

「いえいえ、とんでもありません!」

それを打ち消すがごとく、慌てて両手を振りながらフォローに入った。

「今後の取りまとめと窓口は私に一任してもらいます。本部長の最終承認を得てからからふるわーくすさんに回すようにします」

任野の帰社後、次のメールが入っていた。

【最終的なサイトの目的は『新規顧客の獲得』でまとまりました】

現場担当案をベースにした追加要望が、今回は矛盾なく具体的に書かれていた。
その上での、広報・役員・SEOコンサルの優先順位も。

矛盾していた要件は見事にパズルのように組み合わさっていく。
最上部はユーザーのための利用案内、スクロールした中段に信頼感を与える役員メッセージと企業紹介、フッター付近に導線を整えた採用情報とSEOコンテンツ。

役割が明確になったサイトマップにクライアントは大満足。
その報を受けたからふるわーくすの面々は全員でガッツポーズを決めたのであった。

⑦ 締め

最終FBを終え、あとは公開を待つばかり。
日の暮れかけたからふるわーくすオフィス。
任野がぺかっと笑いながらタンブラーを手にする。

「今回は勉強になりました! たくさん意見があるのも賑やかで、とても楽しかったんですけどね!」

小田は「もうパンクして倒れそうになってたのを忘れたのか」と内心呆れる。
まあ、そこが任野ちゃんのいいところか。

言葉がハーブティーを一口すすり、涼しげな目でホワイトボードを見やる。

「そうですね」

「意見が出るプロセスと意思決定のルート。これらが明確に分離され整理されているのなら、ステークホルダーが多い案件ほど合理的な成果物が生まれると思いました」

絵森が満足そうに、ゆるふわの髪を揺らして微笑む。

「想いが多いほど、紡ぎ合わされたときのときめきも大きくなりますもの。素敵なサイトになりましたわ」

小田のデスクには、先日食べた「ふわっ!ときて、じゅわっ! 濃厚ミルクカスタードと発酵バターのハーモニー鳴り響く、ほろほろ贅沢ブリオッシュ」。
ただし前回と違うのは、レンジでリベイクしたもの。
ちょうど会社のレンジが壊れていたところ、任野がクライアントの店頭でリベイクレンジを見つけたので購入したのだった。

ブリオッシュの端っこに軽く歯を入れる。
さくりと生地が崩れていく。

「ん! ふわじゅわ!」

小田が満面の笑顔を浮かべた。
他の3人も釣られるように笑みを浮かべる。
日の暮れゆくからふるわーくすのオフィスは笑い声に包まれた。

業務メモ

※作者の独学用です。参考程度にご覧ください。

漫画

テキスト

テキストで読みたい方はこちら

テーマ

多数のステークホルダーが関与するプロジェクトにおける意思決定構造の整備

実務ポイント

  • 関係者が増えるほど意見は増える プロジェクトの規模が大きくなったり、レビュー担当者が増えたりすれば、当然ながら要望や意見の数は乗算的に増加する。

  • 意見が増えること自体は悪くない 多様な視点からフィードバックが出ることは、クオリティ向上やリスクヘッジにおいて本来は歓迎すべきことである。

  • 問題の本質は「意思決定ルート」の曖昧さ トラブルの原因は、意見が多いことではなく、「出た意見を誰が精査し、誰が最終決定を下すのか」というルールが未定義なことにある。「意見を出す人」と「決める人」を混同してはならない。

  • 初期フェーズでの「役割定義」の徹底 関係者が増えることが分かった時点(あるいはプロジェクト初期)で、以下の役割をあらかじめクライアント側と握っておく。

  • 誰が意見を出すのか(各部署の担当者など)

  • 誰がそれを集約して判断するのか(クライアント側の主担当窓口など)

  • 誰が最終的な承認(責任)を負うのか(決裁権を持つ役員・本部長など)

  • 誰が制作側に連絡をするのか(窓口の一本化)

  • PM・ディレクターの真の役割 PMの仕事は、出てきた意見を無理やりすべて詰め込むことでも、関係者を黙らせることでもない。意見が衝突した際に、問題を構造化してクライアントに提示し、適切なルートで「合意形成(優先順位付け)」が行われるようナビゲートすることである。

一言

関係者が増えるほど、決める人を先に決める。

模擬問題にチャレンジ!

※作者の独学用です。参考程度にご覧ください。

問題

プロジェクトでは、進行に伴って当初想定していなかった部門や責任者などが新たに参加し、ステークホルダーが増えることがある。それぞれの立場から意見を得ることは、成果物の品質向上やリスクの発見につながる一方、異なる要求や意見が示された場合には、その意思決定の進め方がプロジェクトの進行に影響を及ぼすことがある。

あなたがPMとして携わったプロジェクトのうち、複数のステークホルダーから異なる要求や意見が示され、意思決定の進め方について対応が必要となったプロジェクトを一つ取り上げ、設問ア~ウに従って具体的に述べよ。

設問ア(800字以内)

あなたが携わったプロジェクトの概要、目的、あなたの立場及び主要なステークホルダーについて述べよ。

また、ステークホルダーからどのような異なる要求や意見が示され、それによって意思決定上どのような問題が生じたのかを具体的に述べよ。

設問イ(800字以上1,600字以内)

設問アで述べた状況について、あなたはPMとして何を問題の本質と判断したか。

その判断に基づき、意思決定を適切に進めるために、あなたが行った分析、関係者への働きかけ及び対応について述べよ。その際、誰にどのような判断又は承認を求めたか、及びその対応を選んだ理由についても具体的に述べよ。

設問ウ(600字以上1,200字以内)

設問イで述べた対応によって、意思決定及びプロジェクトの進行がどのように変化したかを述べよ。

また、その結果をPMとしてどのように評価したか、残った課題は何であったか、及び同様の状況に対して今後どのように改善するかを具体的に述べよ。

回答例

回答例を見る

想定プロジェクト

ユーズドショップを運営する企業のWebサイト制作プロジェクト。

第10話本編と同じく、制作終盤で顧客社内のレビュー参加者が増え、経営役員、広報担当者、サービス運用担当者、外部SEOコンサルタントから異なる要求が提示された案件とする。

受験者は制作会社側のPMとして、要件整理、制作進行、顧客との調整を担当する。顧客側には当初からのWeb担当者がおり、最終的に本部長が最終承認者となる。

設問ア 回答例

私がPMを担当したのは、ユーズドショップを運営する企業のWebサイト制作プロジェクトである。目的は、同社のサービス内容を分かりやすく伝え、新規顧客の獲得につなげることであった。私は制作会社側のPMとして、要件整理、デザイン・コーディングの進行管理、顧客との調整を担当した。当初は顧客のWeb担当者を主な窓口として進め、デザインとコーディングは最終盤に入っていた。

その段階でテストサイトが顧客社内で好評となり、経営役員、広報担当者、サービス運用担当者、外部SEOコンサルタントが追加レビューに参加した。役員は企業としての信頼感、広報は採用への活用、現場は利用者が迷わない導線、SEOコンサルタントは検索流入の強化を求めた。いずれもサイトを良くするための意見であり、私は意見が増えたこと自体は問題ではないと考えた。

しかし、その後は各関係者から制作側へ個別に具体的な修正要求が届き、広報、現場、役員がそれぞれ自分の重視する情報をトップページ最上部へ配置するよう求めるなど、同時には成立しない要求が生じた。誰が意見を集約し、誰の判断を正式な決定として扱うのかが明確でなかったため、制作側ではどの要求に基づいて作業を進めるべきか判断できない状態となった。

【概算文字数:522字】

設問イ 回答例

私は、問題の本質は要求の数や内容ではなく、レビュー参加者が増えた後も意思決定の仕組みを更新しておらず、意見を出す人と最終的に決める人が分離されていないことだと判断した。各要求を個別に見れば、デザイン変更や導線変更など制作上の対応案を検討することは可能だった。しかし、役員、広報、現場、外部コンサルタントはそれぞれ異なる立場から会社にとっての利益を主張していた。どの目的を優先するかは顧客企業の経営・事業上の判断であり、制作会社側の私が採否や優先順位を決める権限はないと考えた。

そこで私は、まず制作側に届いていた意見を、要求元、要求内容、対象箇所、他の要求との関係、反映した場合のサイト構成や利用者体験への影響が分かる形に整理した。例えば、トップページ最上部については、役員の会社紹介、広報の採用情報、現場の利用案内をすべて主役として配置すると、サイトの目的と情報の優先関係が不明確になることを示した。一方で、私はこの資料上で「現場案を採用する」などの裁定は行わなかった。制作側が示すべきなのは、何を選ぶべきかという結論ではなく、顧客側が判断するための材料だと考えたためである。

次に、顧客との連絡を担当する営業担当者を通じて、当初のWeb担当者へ現状を説明した。複数の関係者から直接要求を受ける状態では、制作側が正式な指示を判別できないこと、要求間に矛盾がある場合には顧客側で判断が必要であることを伝え、レビュー参加者増加後の窓口と承認フローを確認した。その結果、顧客側でも各部門の意見を誰が取りまとめ、誰が最終判断するかを明確に定めていなかったことが分かった。

私は、制作会社側で決定者を代行するのではなく、顧客側で取りまとめ役と最終承認者を定めてもらう必要があると説明した。顧客側で協議した結果、従来のWeb担当者が各関係者の意見を取りまとめる窓口となり、本部長が最終承認者となった。

以後、制作側へ関係者から直接要求が届いた場合は、その場で採否や実装を約束せず、要求内容と既存要求への影響を整理してWeb担当者へ返すことにした。Web担当者が関係者の意見を集約し、本部長の承認を得た内容だけを正式な決定として制作側へ一本化して連絡する運用とした。私は、制作側が顧客内部の意思決定を肩代わりするのではなく、適切な権限を持つ人が判断でき、その結果を制作側が明確に受け取れる状態を整えることがPMとして必要だと判断した。

【概算文字数:1,007字】

設問ウ 回答例

この対応後、顧客側ではWeb担当者が各関係者の意見を取りまとめ、本部長が最終承認する流れが定着した。顧客側でサイトの目的を再確認した上で、各要求の採否と反映方法について本部長の承認を得た。制作側は、その承認済みの内容をWeb担当者から正式な指示として受け取ったため、矛盾した要求のどれを採用するかを制作現場で判断する必要がなくなった。

その結果、トップページでは利用案内を主要な導線としつつ、企業紹介、採用情報、SEOを考慮したコンテンツにもそれぞれ役割を持たせたサイトマップを確定でき、制作を再開できた。多様な意見そのものを排除せず、顧客側で意思決定した結果を一つの指示として受け取れるようになった点は有効だったと評価している。

一方、私はこの問題への対応が後手に回ったと評価した。追加レビューの参加者が増えると分かった時点で、意見が増えることは予想できていた。それにもかかわらず、多角的なレビューには利点もあると考え、窓口や承認者を確認しないまま進めたため、矛盾した要求が制作側へ直接届いてから対応することになった。

今後は、プロジェクト開始時だけでなく、途中でレビュー参加者が追加された時点でも、誰が意見を出し、誰が取りまとめ、誰が最終承認し、誰が制作側への正式な窓口となるのかを確認する。また、窓口外から直接要望を受けた場合は、内容を無視せず、制作側で採否も決めず、影響を整理して正式な窓口へ返す。この運用によって、関係者の多様な意見を生かしながら、意思決定責任を曖昧にしない進行を行う。

【概算文字数:645字】

キャラクター紹介・漫画版・小説版の各話はこちら


「からふるわーくす」トップへ

スポンサーリンク
天満川 鈴のプロフィール画像
WRITTEN BY

天満川 鈴

未経験からWEB業界に入り、現在はWEBディレクターとして実務に従事。 要件整理・導線設計・コンテンツ構成などを学びながら、日々改善を重ねています。 AIを活用したコンテンツ制作・効率化を強みとし、プロンプト設計を含めた制作フローの最適化にも取り組んでいます。

詳しいプロフィールはこちら

RECOMMENDED INFRASTRUCTURE

私はConoHa以外を勧めない。

2016年からずっとConoHaを使い倒してきました。知人に「一番いいサーバーは?」と聞かれたら、迷わずここを教えます。

レンタルサーバーナンバーワンを誇る高速環境であることはもちろん。私が「黒い画面って何?」というド素人からサイト制作のプロになれたのは、傍らにずっとこのはちゃんがいてくれたから。
私がConoHaを使い続ける、嘘偽りない理由です。

※ConoHaに初めて入会の方限定。
本CTAの画像もしくはボタンを押してWINGパック12か月以上を契約すると、最大5000円割引してもらえます。

公式サイトで詳細を見る
× 閉じる