【からふるわーくす】PM編小説11話「AIに作らせました!」

天満川鈴 WRITTEN BY 天満川鈴
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本編

① 状況提示

Web制作会社「からふるわーくす」のオフィスに、弾んだ足音が響き渡った。
営業職の任野が瞳を輝かせながら大きく手を振る。

「小田さん! 戻りました! クライアントの『ひなた雑貨店』との打ち合わせ、大成功です!」

ライトブラウンのストレートロングにきっちりと着こなした黒スーツ。
纏ったオレンジのオーラがオフィスの空気を引き上げる。

任野が大きめのトートバッグを自席に置く。
学術書と見紛うほどに分厚い資料を取り出すと、小田のデスクにドンと置いた。

「見てください! お客様が『生成AIをフル活用して作った』って!」

表紙には「要件定義書・仕様書」と書かれている。

小田はWebディレクターとしてからふるわーくすの後輩達をまとめている。

小田は目の下にうっすら常駐した隈を擦り、見事な表紙の資料を手にとる。
ぱらぱらとめくると、整然と並ぶ目次、豊富な三色刷りの図表、そして「AI活用による業務効率化」の文字。
一見すると、プロのコンサルタントが何週間もかけて作り込んだ完成度に思えた。

「こんなにたくさん、細かく整理してくださってるねえ」

自らのお団子に結わえたヘアスタイルと合わせるかのように丸く感心した表情を見せる。
「でしょでしょ。AI慣れてないのに数日徹夜で頑張ってくださったらしくて――」

「AI慣れてない?」

小田の胃にチクっと痛みが走り、怪訝そうな表情を浮かべる。
しかし任野は気づかないまま、誇らしげに胸をドンと叩いた。

―― 『あとは弊社にお任せください』って胸を叩いてきちゃいました」

② 違和感発生

「……確認します」

コーダーの言葉が、ひっそりと机の上の資料に手を伸ばす。
青みを帯びたアッシュグレーのショートボブを揺らし、静かにページを捲り始めた。

ピタ、と捲る手が止まる。
切れ長の目を資料に向けたまま、ぼそりと口を開いた。

「……矛盾があります」

「えっ? 矛盾ですか?」

任野の笑顔が引きつる。
しかし言葉は表情を一切変えず、感情を排した声で、資料を淡々と読み上げ始めた。

「12ページ。『会員登録不要で、誰でも手軽に購入できるようにしたい』。……しかし、24ページの顧客管理要件には、『購入履歴をユーザーごとにマイページで完全に管理したい』とあります。……非会員の行動を恒久的に追跡・管理することは、Cookieの保持期間やセキュリティ観点から不可能です」

「あ、あれ……?」

任野の額に影が差す。

「45ページ。『Webの更新担当者はITが苦手なので、直感的に操作させたい』。……一方で、52ページのCMS要件には、『デザインの自由度を極限まで高め、コーディングなしで誰でも自由にページを追加できる複雑なCMS構造を希望』。……ITが苦手な層に、自由度の高すぎるレイアウトブロック型のCMSを渡せば、確実にサイトのトンマナが崩壊し、運用は初日で破綻します」

「え、えと……」

任野の体が固まる。

「極めつけは予算と機能です。『運用コストは極力削減、月額保守は最低限に』。……ですが、機能要件の最後には、『AIが自動でトレンドを分析し、毎日リアルタイムに更新されるレコメンドランキング機能が欲しい』。……この規模の外部API連携とデータバッチ処理を回すとなれば、相応のサーバーコストと保守費用が毎月発生します。『合理的ではありません』

「あ、あははは……」

任野の魂が抜けた。

(しってた……)

小田の右手が、無意識に胃のあたりへと動き始める。
「AI慣れてない」と聞いた瞬間から、きっと資料の中身は言葉の説明した通りなんだろうと。

(でも言葉ちゃん……)

小田の左手が、無意識に胃薬のビンへ伸びる。
まさかその先の展開までは読めなかった。
言葉に悪気はまったくない。
そこはわかっているのだが、さすがに今日は見てて胃に来るものがあった。

いや……今日も、か。

③ 問題の顕在化

立ち直った任野が営業資料を守るように抱え込む。

「で、でも! AIって、すごく頭が良いんじゃないんですか?」

言葉が任野にちょいちょいと手招きして、モニターを見ろと促す。
スコスコとChatGPTにプロンプトを入力する。

【チャッピー、今からサイトを作るんだけどやりたいことまとめてくれない?】

【いいよ】

【やりたいことは以下のとおり。
「会員登録不要で、誰でも手軽に購入できるようにしたい」
「購入履歴をユーザーごとにマイページで完全に管理したい」
「Webの更新担当者はITが苦手なので、直感的に操作させたい」
「デザインの自由度を極限まで高め、コーディングなしで誰でも自由にページを追加できる複雑なCMS構造を希望」
「運用コストは極力削減、月額保守は最低限に」
「AIが自動でトレンドを分析し、毎日リアルタイムに更新されるレコメンドランキング機能が欲しい」
取引相手に見せられるようプリントアウト用に体裁を整えてほしい。】

モニターにクライアントの資料の一部が切り取られたかのような回答が流れ出す。

「AIは『まとめて』と言ったら『まとめる』だけ。言われたことしかしないんです」

再びスコスコとキーボードを鳴らす。

【ところでこの資料、全部実現することは可能? 忖度しないで客観的に答えて】

【無理、できない。これは……】

言葉が述べた通りの回答が流れる。

「このように命じない限り、AIは『要求同士の依存関係』や『優先順位』の意思決定までは行いません。入力されたものを全肯定して全部盛りするだけです」

「利用者様にとっても、全部盛りは必ずしも幸せではありませんわ――」

隣に座るデザイナーの絵森も、悲しげに画面を覗き込む。

「機能が多すぎて迷路のようになったサイトは、どんなにデザインが美しくても、心が動きませんもの。これでは、誰も『ときめかない』システムになってしまいますわ」

(胃痛で伏せっている場合じゃないわ……)

小田はよろよろとホワイトボードの前へと歩き出した。

④ 議論・整理

任野に向けてにっこりとしてみせる。

「クライアントは『完璧な仕様書ができた!』って大喜びなんだよね?」

「はい。『これでもう見積もりも開発もすぐいけるよね!』って……」

「せっかくのクライアントがくださった材料、私達が完璧に料理してみましょうか」

小田はホワイトボードに、大きな3つの円を書き始めた。

「AIが作ってくれたこれは『要件定義書』じゃない。ただの『要件候補集』。そしてクライアントの要望全部盛りでもあるの」

マーカーを走らせ、クライアントの要望を3つのフェーズに分類していく。

【絶対必要(Core)】:会員登録なしのクイック購入、シンプルなお知らせ更新、低コスト運用
【できれば欲しい(Want)】:マイページ機能、CMSの自由度向上
【将来的に欲しい(Future)】:AIリアルタイムランキング

「でも全部盛りなのは悪いことじゃないわ。やりたいことを包み隠さず私達に話してくれたということでもあるのだから」

さらに、その分類した要素を「利用者価値」「運用負荷」「予算」の3軸でマッピングし、マトリクス図へと落とし込んでいく。

「だったら私達は、クライアントが『何を捨てるか』決めるのを手伝えばいい。要らないものを捨てて、味を整えて。残った願い事を全て美味しく食べられるようになったら完壁な料理のできあがり」

「捨てる、ですか……?」

「サイト制作において重要なのは『何を作るか』だけじゃない。何を作らないかも大事――」

ホワイトボードにキュっと「スコープ管理」と書く。

「――全部を作ろうとすれば予算も破綻するし、操作も難しくなる。だから何が一番叶えたい目的(コア)なのかをジャッジする必要があるの」

言葉が淡々と補足する。

「AIは自らの意思でクライアントのビジネスモデルや熱量を見て『今回はこちらを優先すべきです』と背中を押すことができません。そこは感情と背景を理解できる人間にしかできない領域です」

絵森が納得したように微笑む。

「皆様の本当に叶えたい『夢』がどこにあるのか、この綺麗な資料の中から紡ぎ出して差し上げるのですね」

任野がにっこり笑った。

「私頑張ります! みんなと一緒に『ひなた雑貨店』さんの夢を探します!」

⑤ 解決

翌日、小田と任野は、ホワイトボードの図を綺麗にまとめた「1枚の提案書」を持ってクライアントの元へ向かった。

「ここまで網羅的に要望を出していただき、本当に助かりました! おかげで、御社が将来的に目指したいグランドデザインが完全に共有できました!」

AIが作った立派な仕様書は、一切否定しなかった。むしろ、大いに褒め称えた。
その上で、小田は分類マップを提示した。

「ただ、これらをすべて同時に実現しようとすると、システムがケンカをしてしまい、一番大事な『ITが苦手な現場の方でも、迷わず簡単に運用できる』という軸がブレてしまいます」

任野が引き取る。

「まずはこの『絶対必要』な最小限のコアから形にしませんか? 残りのAI機能などはサイトが育った次のフェーズの楽しみに取っておきましょう!」

クライアントの担当者は、差し出されたシンプルな図を見て苦笑いを浮かべた。

「あ、本当だ……これ、どっちもやるなんて無理ですね。AIが綺麗にまとめてくれたから完璧だと思い込んでいたけど……本当に今必要なのは、このシンプルな購入導線と簡単な更新機能だけです!」

以降の打ち合わせは驚くほどのスピードで合意形成(スコープ決定)へ至った。

⑥ 締め

からふるわーくすオフィス。
小田は無事にスコープが確定した新しい案件の構成案を見ながら、買ってきたばかりのメロンパンを嬉しそうに頬張っていた。

任野が、すっかり元気になった笑顔でタンブラーを傾ける。

「AIって本当に凄いけど、そのまま鵜呑みにしちゃダメなんですね!」

言葉が、HHKBのキーボードを小気味よく叩きながら言った。

「はい。AIは情報整理や選択肢の列挙――1から100を出すことは得意ですが、最後に『これで行く』と決断すること――100を1に絞ることはできません」

絵森が優しく、ゆるふわの髪を揺らす。

「想いが多すぎると、形が歪んでしまいますもの。人間の手で余分なものを削ぎ落として磨き上げるからこそ、最後に美しい体験(UX)としてときめくのですね」

小田がメロンパンの最後の一口をぐっと呑み込む。

「最近はAIが大量に材料を出してくれるおかげで仕事が捗ることもある、でも――」

そして悪戯っぽく笑いながら胃をさすった。

「増えた材料を減らすせいで、私の胃の痛みは昔とあんまり変わらなかったりするんだけどね」

オフィスが、温かい笑い声に包まれた。

業務メモ

※作者の独学用です。参考程度にご覧ください。

漫画

AI活用による要件定義とスコープ管理のまとめ。実務チェックリストと「AIは要件を増やす。PMは要件を減らす。」というポイントを掲載

PMによる要求の優先順位付けとスコープ管理を説明する図解。今回作るものと作らないものを整理し、関係者と合意する流れを紹介

要件定義における生成AIの得意分野と苦手分野を比較した図解。情報整理は得意だが、優先順位付けや判断には人間の関与が必要

生成AIを活用した要件定義の流れを示す図解。クライアントの要望からAIによる要件候補の整理、PMによる確認、要件定義までを説明

テキスト

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テーマ

要件定義・スコープ管理(AI活用編)

実務ポイント

  • AIが作るのは「要件定義書」ではなく「要件候補集」
    生成AI(ChatGPTやGeminiなど)に要件定義をさせると、一見すると非常にフォーマットの整った、完璧に見えるドキュメントが出力される。しかし、それはユーザーの要求を「全肯定して綺麗に並べ替えただけ」であることが多い。
  • AIは「情報整理」が得意で「優先順位付け」が苦手
    AIは、トレードオフ(あっちを立てれば、こっちが立たず)の関係にある矛盾した要求(例:会員登録不要 × 完璧な購入履歴管理)であっても、そのまま同一ドキュメント内に共存させてしまう。
  • PMの真の仕事は「要求を捨てる」判断を行うこと
    プロジェクトを成功に導くために本当に重要なのは、「何を作るか」よりも「何を作らないか(スコープの境界線)」を引くことである。
  • AI成果物は「完成品」ではなく「議論の出発点」として使う
    クライアントがAIで作成した資料を持ってきた場合、それを否定するのではなく、人間の頭の中の引き出しを網羅的に開けてくれた「最高の叩き台」として扱い、そこから人間(PM)がファシリテーションして優先順位を絞り込んでいくアプローチが最も効果的である。

一言

AIは要件を増やす。PMは要件を減らす。

模擬問題にチャレンジ!

※作者の独学用です。参考程度にご覧ください。

問題

あなたが携わったプロジェクトにおいて、ステークホルダから多数の要求が提示され、そのすべてを実現することが、納期、予算、品質、要員などの制約から困難となった事例について、次の問いに従って論述してください。

設問ア

あなたが携わったプロジェクトの概要、プロジェクトの目標、ステークホルダから提示された要求、及びその要求をすべて実現することが困難であると判断した理由について述べてください。

設問イ

設問アで述べた状況について、あなたは要求をどのように整理・分析し、優先順位を決定しましたか。

また、プロジェクトのスコープをどのように定め、ステークホルダとの合意形成を行ったか、工夫した点を含めて具体的に述べてください。

設問ウ

設問イで述べた対応の結果をどのように評価していますか。

また、その評価を踏まえて、今後同様のプロジェクトにおいて改善したい点について具体的に述べてください。

回答例

回答例を見る

設問ア

私は、ある中小企業のWebサイトリニューアルプロジェクトで、プロジェクトマネージャを担当した。
このプロジェクトの目的は、既存サイトの情報を整理するとともに、利用者が必要な情報へアクセスしやすいサイトへ改善し、問い合わせにつなげることであった。
要件定義の初期段階で、顧客から生成AIを利用して作成した要求事項の一覧が提示された。そこには、デザインの刷新、コンテンツ管理機能、問い合わせ機能、会員向け機能、アクセス解析、自動更新など、多数の要求が含まれていた。
しかし、要求には優先順位が設定されておらず、一部には相互に両立しにくいものも含まれていた。また、すべてを実現すると、当初予定していた予算、納期及び開発要員では対応できない可能性が高かった。
そこで私は、生成AIによって作成された資料を完成した要件定義書として扱うのではなく、顧客の要求を網羅的に洗い出した「要件候補」と位置付け、要求の整理とスコープの決定を行う必要があると判断した。

設問イ

私はまず、提示された要求を目的や機能ごとに分類し、それぞれがプロジェクトの目的達成にどの程度寄与するかを整理した。
そのうえで、顧客との打合せを行い、各要求について、利用者にとっての価値、実現に必要な費用と期間、技術的な実現可能性、他の要求との関係を確認した。
特に、要求同士がトレードオフの関係にある場合には、両方をそのまま採用するのではなく、それぞれを実現した場合の利点と影響を顧客に説明した。
そして、プロジェクトの目的達成に不可欠であり、今回の予算と納期の範囲で実現すべきものを「今回実施する要求」とし、重要ではあるものの直ちに必要ではないものについては「今回は実施しない要求」として整理した。後者については、要求そのものを否定するのではなく、将来の追加開発で再検討できるよう記録した。
また、スコープを決定する際には、単に機能の一覧を提示するのではなく、「今回何を作るのか」と同時に「今回何を作らないのか」を明確にした。
整理した内容を顧客と確認し、今回のプロジェクトで実現する範囲について合意を得た後、プロジェクトメンバにも共有した。
これにより、生成AIによる網羅的な要求整理という利点を活用しながら、優先順位付けとスコープ決定については、プロジェクトマネージャとして顧客との合意形成に基づいて判断した。

設問ウ

要求を整理し、スコープ内とスコープ外を明確にしたことで、プロジェクトメンバが今回実現すべき内容に集中できるようになった。
また、顧客との間でも「今回実現するもの」と「将来検討するもの」の認識を共有したことで、開発途中での要求追加や認識のずれを抑えることができた。このため、当初の目的を維持しながら、予定した範囲内でプロジェクトを進めることができたと評価している。
一方、要求の整理には想定以上の時間を要した。生成AIによって短時間で多数の要求候補を作成できても、それらの優先順位や相互関係まで適切に決定できるとは限らないためである。
今後、同様のプロジェクトでは、生成AIを利用する段階から、プロジェクトの目的、予算、納期などの前提条件を明確にするとともに、AIの出力をそのまま要件として採用しないことを関係者と共有する。
そのうえで、生成AIを要求の洗い出しや情報整理の支援に活用し、人間がステークホルダとの対話を通じて優先順位付けとスコープ決定を行う。

AIは要件を増やす。PMは要件を減らす。

生成AIとプロジェクトマネージャの役割をこのように分けることで、AIの利点を活用しながら、より効率的な要件定義とスコープ管理につなげたい。

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天満川 鈴

未経験からWEB業界に入り、現在はWEBディレクターとして実務に従事。 要件整理・導線設計・コンテンツ構成などを学びながら、日々改善を重ねています。 AIを活用したコンテンツ制作・効率化を強みとし、プロンプト設計を含めた制作フローの最適化にも取り組んでいます。

詳しいプロフィールはこちら

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私はConoHa以外を勧めない。

2016年からずっとConoHaを使い倒してきました。知人に「一番いいサーバーは?」と聞かれたら、迷わずここを教えます。

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